デニムミニの少女

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夕闇の出来事

ラテスケンスの襲来は世界を変えた。
ケレールやセネーと同じ異星の者は世界各国にいてどの国でも人々に情報をもたらしたらしく、「ラテスケンス」という呼び名が公式に使われ、ニュースなどでもその名が連呼された。
ラテスケンスに感染した衣類は世界各国で発見され、どの国でも犯罪を誘発していた。
スピードや怪力などの能力を得ると同時に良心や道徳心を失ってしまうラテスケンスへの感染は、犯罪者となり社会的信頼を失ってしまう危険性や、自分の愛する人たちを傷つけてしまう可能性から、世界の人々に恐怖を与えた。
感染した人間をすぐに見分けられればまだ状況は少し救いがあると言えたが、実際はそうではなかった。
感染した衣類を身につけたとたんに暴力などの犯罪行為に走り、すぐに逮捕される人間がいる一方で、感染後、人になかなか気づかれないような犯罪を行う人間もおり、そういった場合には、自分が感染したことをまわりに気づかれることなく新たに感染衣類を作り出し、別の人間に身につけさせようとしたのだった。
特に、人知れず感染している人間が自分の家族であれば、ほとんど感染を逃れる手はないと言えた。
人から衣類をもらうことに警戒する風潮が広まってはいたが、ラテスケンス感染の連鎖が完全に止まることはなかった。

普通の高校生活を送るはずだった美那子の日常にも、従来それほど必要のなかった警戒が、必要不可欠となっていた。
「特に女子は登校、帰宅時に、なるべく人の多い道を通るように」
美那子のクラスの担任が一日の終わりにそう言った。
ケレールの力が注がれた衣類の一式を毎日着るわけにもいかず、そもそも平日の登校日には高校の制服を身につけねばならなかったため、美那子は制服の下に、例の白いハーフトップを着用することにしていた。
もちろんラテスケンスに感染した衣類を身につけるのはあまりいい気持ちではなく、かなり迷った末での決断であったが、実際にそのハーフトップを着て超人的な力を得ることは、美那子に途方もない安心感をもたらしてくれた。
美那子の最寄りの駅から遠まわりせずに自宅に帰るためには、一か所だけあまり人気のない道を通る必要があり、美那子はその日も学校帰りにその道にさしかかった。
そこは、何週間か前に美那子が三人の男に襲われた道でもあり、あれ以来美那子はその付近を通るたびにかなり注意深く警戒するようになっていた。
いつものようにすでに辺りはうす暗くなっていた。
美那子は自分の背後をふりかえり、人がいないことを確認した。
そして、この人気のない地帯を一気に駆け抜けようと、走り始めた。
しかしそのとき、突然道端の木の陰から人影が現れ、走っている美那子を呼びとめた。
「あの、ちょっと、すみません」
男の声だった。
美那子はすぐに立ち止まり、警戒しながら、数メートル先にいるその人物を見た。
すでに暗くなりすぎていて人物の顔ははっきりとは見えなかったが、二十代ぐらいの若い男のようだった。
美那子はあまり近づかないようにしつつも、声をかけた。
「何かご用でしょうか」
若い男は、その場で動かないまま、
「ちょっと道をお尋ねしたいのですが…」
と言った。
美那子はすぐにその男を怪しいと思った。
ここは街から住宅街に向かう一本道であり、この場所で人に道を聞くことは、かなり不自然であった。
しかし、本当に道に迷っている人だとしたら助けてあげねばと思い、美那子はすぐにその場から走り去りたいという気持ちを抑えることにした。
「どこに行きたいのでしょうか」
美那子が訪ねると、男は、
「えっとですねー…」
と言いながらポケットから何かを取りだそうとした。
それと同時に、美那子のうしろで人の動く気配がして、美那子の右の手首のあたりでカチリという音がした。
驚いて美那子が自分の手首を持ち上げて見てみると、手錠がはめられていた。
「え?」
美那子が思わず声を発してうしろを見てみると、そこには別の若い男たちが三人立っていた。
美那子がうしろをふり返っている間に、美那子の前面にいた男が、美那子に突進してきた。
腰のあたりにしがみつかれて美那子がふたたび前を向くと、今度は背後の男たちのひとりが美那子の脇の下から腕をのばし、美那子を羽交い絞めにした。
さらに美那子の左右にひとりずつ男が立ち、美那子の左右の腕をそれぞれつかんだ。
美那子は白いセーラー服に、ひざ上丈の制服スカートという身なりだったが、腰をつかんでいる男はスカートの中に手を入れ、左右の男たちはセーラー服をまくり上げようとしていた。
男たちの目的を瞬時に察した美那子は、制服の下に着ているラテスケンスのハーフトップの力を発揮した。
左右の男たちをそれぞれ両手でつかむと、美那子は腰にしがみついている男の体を、その左右のふたりの体で勢いよくはさんだ。
体に強い衝撃を受けた三人の男たちが悲鳴を上げ、その場に倒れた。
続いて、背後から美那子を羽交い絞めにしている男の顔に、美那子は自分の後頭部をぶつけた。
背後の男も悲鳴を上げて地面に倒れこんだ。
ラテスケンスのハーフトップがもたらす怪力は一般の人間の相手になるものではなかった。
美那子は男たちを飛び越え、すぐにその場から走り去ろうとした。
しかし、地面に倒れた男のひとりがこう言った。
「話が違うぞ、手錠かけたのに」
美那子は走り去りかけていたが、足をとめた。
《この人たちは、私がケレールの衣類を着たときの弱点を知っている?》
瞬時に美那子の頭の中でさまざまな可能性が浮かんでは消えていったが、この男たちが何者なのかはまったく見当がつかなかった。
この男たちを問いつめて、なぜ男たちが自分のことを知っているのか聞き出したい衝動にかられた美那子だったが、やはり、このよこしまな男たちから早く離れたいという気持ちの方が優先した。
美那子は、ふたたび自分の家の方角へ走り始めた。

帰宅すると、美那子はすぐに警察に電話をかけた。
九条の名前を出して、取りついでもらえるかと尋ねたところ、しばらく待ったあとに電話から聞き覚えのある九条の声がした。
「白神さん、どうかしたの?」
美那子は帰宅途中の出来事をくわしく話した。
九条は驚いているようだった。
「なんてこと!…白神さん、けがはなかったの?」
そういえば、ケレールの衣類と違って、白いハーフトップ着用のときには普通に自分がケガをすることを思い出した美那子は、あらためて自分の全身に痛みがないかを確認した。
腰にしがみつかれ、羽交い絞めにされたが、それに関しては痛む部分はなかった。
ただ、左右からつかまれた両手首あたりは、よほど強くつかまれたらしく、少し赤くなっていた。
美那子は、九条を安心させるため、
「はい、さいわいケガはないようです。」
と答えた。
九条はそのあと、男たちの人相を訪ねてきたが、あたりがすでに暗くなりすぎていたため、顔などははっきりわからなかったと答えるしかなかった。
それ以外にもいくつかの質問がかわされたが、九条は電話を切る前にこう念を押した。
「とにかく、あなたの能力とその弱点が、誰かに知られていることは間違いないから、出かけるときは常にあのハーフトップを身につけるのを忘れないで」
美那子は礼を言い、電話を切った。
電話を切ったあと、美那子はまだ自分の右の手首に、先ほどの男がかけた手錠がついているのに気がついた。
美那子は左手の人差し指と親指で手錠の一部をつぶし、その部分から手錠を引きちぎると、自分の机の上にそれを置いた。
この手錠が自分を襲った男たちの身元を割り出す手がかりになるかもしれない。
美那子は、明日この手錠を九条に届けようと思った。

しばらくして、美那子の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
ノックのしかたで、それが母親だと美那子にわかった。
「はーい、なーに?」
美那子が答えると、ドアが開き、美那子の母親が部屋に入ってきた。
「美那ちゃん、これ着てみない?」
そういう母親が手に持っているのは、見たことのない、折りたたまれたうす緑色のブラウスだった。

つづく

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