デニムミニの少女

MiniActive > バーチャル > デニムミニの少女 > part.17

* 自宅での恐怖

いきなり見知らぬ衣類を差し出している母親に、美那子はとまどった。
世間の人たちがみな知っているように、母親もラテスケンスのことは知っている。
親子とはいえ、人から衣類をもらうことを警戒する風潮の広まっている今、自分の娘に突然見知らぬ衣類を差し出すものだろうか。
そう思いたくはなかったが、自分の母親がラテスケンスに感染している可能性がゼロではないと考えた美那子は、しばらく母親の差しだす緑色のブラウスを見つめたあと、こう尋ねた。
「お母さん、それ、どうしたの?」
それに対する母親の言動は予想外だった。
「そんなことどうでもいいじゃない、これ絶対、美那ちゃんに似合うから今すぐ着てみせてよ」
そう言いながら母親は美那子のセーラー服を脱がせようとするかのように手を差し出しながら、美那子の方に歩みよってきた。
母親の様子があきらかにいつもと違う。
美那子は自分の母親の「感染」の可能性が急激に高まったことに衝撃を覚えた。
反射的に美那子は、自分の椅子から立ち上がり、後ずさりした。
美那子の母親は、微笑んだ表情のままさらに美那子に近づこうとした。
その際に、それなりの重量がある美那子の椅子を片腕で軽々と持ち上げてわきにどけた母親を見て、美那子は自分の母親のラテスケンス感染を確信した。
母親にラテスケンスの怪力が発現しているのだ。
「お母さん、ごめんなさい!」
美那子は声を上げると、ベッドの上に飛び乗り、母親を迂回するかたちで部屋のドアの前に飛び下り、ドアを開けて自分の部屋から脱出した。
そして、急いで一階への階段を駆けおりた。
ラテスケンスの怪力を持つ者同士が組み合って争いでもすれば、お互いにケガなしでは済まないことを、美那子は心配したのであった。
自分の家族にケガをさせるようなまねはできない。
それに、美那子も今は無敵のケレールの衣類ではなく、攻撃されれば身体にダメージを受けるラテスケンスのハーフトップだけを身につけているのだ。
母親に何かされて大ケガをするのは美那子の方である可能性も充分にあった。

一階に下りたところで、美那子は自分の父親が玄関のドアを開けて家に入ってくるのを見た。
「お父さん!」
帰宅したばかりの父親に向かって美那子は思わず声を上げた。
すぐに母親がラテスケンスに感染していることを父親に伝えねばならない。
だが、美那子はそこでさらに衝撃を受ける結果となった。
「美那子、どうしたんだ」
そう言う父親の声はいつものとおりだった。
だが、表情がいつもと違っていた。
美那子の父親は、どちらかというと厳格なタイプで、表情はいつもひき締まっていた。
その父親が、今は美那子の前で口もとをゆるめて、見たこともないような笑顔を見せている。
「お父さん!?」
美那子はうろたえた。
明らかにいつもの父親と雰囲気が違う。
美那子が現状を頭の中で整理する前に、玄関を上がった父親が美那子の方に歩みよってきた。
美那子の父親は背広の胸ポケットから携帯電話を取り出し、それを美那子の方にかかげると、大きなシャッター音をたてて美那子を撮影した。
「お父さん、何を!?」
わけもわからず美那子が尋ねると、父親はその顔に微笑みを浮かべたまま、片手で美那子の制服のスカートの裾をつかんだ。
父親が自分のスカートをめくり上げようとしていることに気づいた美那子は、まるで岩で頭を殴られたようなショックを受け、その場に硬直してしまった。
父親は美那子のスカートをめくり上げると、その中を至近距離から携帯電話で撮影した。
驚いて美那子がその場から飛びのくと、美那子の父親は、顔に笑みを浮かべたまま、こう言った。
「これこれ、逃げちゃいけないよ。
 お父さんの同僚のひとりが、美那子のセクシーな写真一枚につき、三千円くれると言ってるんだから、協力しなさい」
美那子は耳を疑った。
そして、激しい衝撃の中で今ひとつの事実を認めざるをえなかった。
父親の道徳心がなくなっている……父親もラテスケンスに感染している!
美那子の父親は、さらに美那子の方に歩みよってきた。
美那子は混乱する頭で、とっさにひとまずこの家から逃げなければと考えた。
美那子の父親は今度は美那子のセーラー服の裾をつかんだ。
すぐにその意図を察した美那子は、自分のセーラー服をつかむ父親の手首をつかみ返し、自分の体からはねのけた。
ラテスケンスのハーフトップを着て怪力を得ている今、父親の腕を払いのけるのはたやすいことだった。
だが、次の瞬間、美那子は腹部に強い衝撃を受けて、その場にかがみこんだ。
「ああっ」
腹部に激しい痛みが走るのを感じ、美那子は悲鳴を上げた。
美那子の父親は笑みを浮かべたまま、美那子に言った。
「親の言うことを聞かないとは、悪い子だ。
 さあ、早く服を脱ぎなさい」
美那子は腹部をかかえて廊下にかがみこんだまま、意識を失いそうになりながらも、たった今何が起こったのかを考えた。
これはケレールのときと同じだ。
父親が自分の腹部を目に見えぬほどの速さで攻撃したのだ。
父親がラテスケンスに感染して得た能力は「とてつもない速さ」ということになる…。

二階にいた美那子の母親がいつの間にか一階におりてきており、今や廊下にかがみこむ美那子を、父親と母親がはさむように立っている。
「お母さん、助けて…」
激しい痛みに耐えながら美那子が小さな声を出すも、母親の反応はまったく美那子の期待を裏切るものであった。
美那子の母親が美那子の両手首をつかみ、美那子の父親は美那子の両足首をつかんだのだ。
そして両親がお互いに引っぱりあうように美那子の体を伸ばし、美那子は廊下に両手を上げて仰向けに寝かされたかたちとなった。
《ラテスケンスに感染した者同士は協力しあうということなの?》
美那子は襲いかかる痛みと絶望の中で考えたが、すぐに、父親が美那子のスカートを引っぱってずりおろしたのを感じた。
そして、父親の携帯電話のシャッター音が聞こえる。
続けて母親の嬉しそうな声が聞こえた。
「美那子の画像が一枚三千円で売れるの?まあ、この子は綺麗だからね…。じゃあ、もっといっぱい撮らないと!」
ラテスケンスの影響とはいえ、美那子の脚の開き具合を変えたりして父親の撮影に協力している母親の姿に、美那子は自分の涙があふれてくるのを感じた。
「母さん、そろそろ上も脱がそう」
父親の声がすると、母親が美那子のセーラー服をまくり上げて引っぱり、脱がせた。
だが、そこで両親の動きがとまった。
「これは…?」
美那子の両親は、セーラー服を取り除いたことで現れた、美那子の胸を覆う白いハーフトップに、とまどっているようだった。
美那子がすでにラテスケンスの衣類を身につけていたことがあまりに意外だったというようだ
その様子に美那子は、自分にはとりあえずラテスケンスの怪力がまだ残されていることを思い出し、にわかに、痛みと恐怖に打ち勝てばこの状況を逃れられるかもしれないという気持ちになった。
美那子は腹部の痛みに耐えながらも、白いハーフトップを見ながらとまどっている父親の顔面に、素早い蹴りを放った。
美那子の脚は父親の顔に命中し、ラテスケンスの力で蹴られたせいか、父親はあっけなくその場にダウンした。
続けて素早く上半身を起こした美那子は、驚いている母親の顔に、自分の頭部をぶつけた。
やはりラテスケンスの力を得た頭突きは、一発で母親をダウンさせた。
美那子はすぐに立ち上がり、脱がされたセーラー服とスカートはその場に置いたまま、階段を二階へと駆け上がった。
そして、自分の部屋に戻るとドアに鍵をかけ、いったん全裸になり、すぐにケレールの衣類一式を身につけた。
あわいピンク色のブラウスの上に青いブレザーをはおり、下はデニムのミニスカートに白いソックスという姿である。
念のため、ブラウスの下にはラテスケンスの白いハーフトップを着ておいた。

ふたたび階下におりてみると両親はまだ廊下でのびていた。
美那子は複雑な気持ちで両親の体を飛び越え、玄関に出るとフォルティスのブーツを履いた。
ケレールのスピード、フォルティスのパワーを得た上、もはや物理的なダメージを受けぬ状態となった美那子は、ほんの少しだけ気持ちが軽くなり、ドアを開けて外に出た。
外の空気でいったん深呼吸した美那子は、現在唯一頼れる存在である九条のいる警察署に向かって、走り出した。

つづく