デニムミニの少女

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第1章 三人の男

1. 人目をひく来訪者

そよ風の心地よさが夏から秋への移り変わりを告げていた。
休日の朝はすがすがしく、知的生命体が操っていると思われる未知の艦隊の一群が地球に近づいているというニュースさえなければ、今日もいつもののどかな一日になっただろうにと、美那子はため息をついた。
それはテレビの速報で突然知らされた驚くべきニュースだった。
どんな生物なのかはわからない。
ただ、人類の宇宙開発のレベルをはるかに超えた技術を持つ異星の者たちが、大群となって地球に近づいているのが観測されたことだけが、全世界に報道されたのだ。
世界はその話題一色になった。
異星の者たちが地球にたどり着くのは一週間以内のことであるらしい。

美那子は威厳をただよわせる大きな門の前で立ち止まり、毛筆の看板の字を眺めた。
<護身術 道場>
一週間後は地球上を異星人が歩きまわっているのかもしれない。
テレビの報道番組に出演する危機管理の専門家のひとりは、自分の身は自分で守れるよう、最低限の護身術を身につけておくのも選択肢としてはありだと言った。
《運動神経には自信がある。ただ、いい先生だといいんだけど…》
小さな不安と、新しい習いごとへの意欲的な希望を胸に、美那子は道場の門をくぐった。

午前中の早い時間にもかかわらず、道場の中には大勢の門徒の姿があった。
美那子がテレビの報道番組を見てここを訪れたように、昨日から多くの一般人が武術の習得を求めて道場を訪れていたのだった。
くつを脱ぎ、広くたたみが敷きつめられたけいこ場に、案内された通りに一礼をして踏み入れると、その場にいた全員がいっせいに美那子の方を見た。
それは再生中のビデオが一時停止されたかのような瞬間であった。
美那子は、三十人ほどの門徒の男のすべてに、驚きあるいは好奇の目で凝視されていた。

若い。
あどけなさが残り、かつ、部分的に大人の女性の落ち着きを備えた顔つきから、今けいこ場に入ってきた少女が中学生か高校生であることは容易に推測できた。
しかし、並んで入ってきた道場主と比較しても、少女の背丈が百六十センチを優にこえていることは間違いなく、その均整のとれた体格が少女のみずみずしさとあいまって、男たちの視線を集めているようだった。
何よりも、濃い青のデニムスカートからのびる肌色のほどよく引きしまった太ももと、その先のひざやふくらはぎの形が、少女のスタイルの良さを証明していた。
さらに、少女のすねの中ほどから下を覆う白いクルーソックスが、清潔感と少女らしい弱々しさを醸し出していた。
上半身にまとう紺色のブレザーは育ちの良さを伝えるかのようであり、そのブレザーの下からのぞく薄手のブラウスはあわいピンク色で、見た者にこの少女の心の優しさを信じさせるかのようであった。
まぎれもない「美少女」がそこに立っていた。

「では、軽く紹介しておこうか…」
美那子をけいこ場に案内した道場主である山之内は、その場の雰囲気を察して、あわてて言った。
「道場見学に来た白神美那子さん、高校二年生」
美那子もその空気を読み、声を発した。
「白神です。今日一日けいこを見学させていただきます。よろしくお願いします」
特に話を振ってもいないのに自発的に挨拶した美那子を見て、山之内は感心した。
《美人なのに礼儀正しく、しっかりしている…》
先ほど美那子を一目見たときから、とんでもない美少女が来てしまったと思いつつも、どうしても目が行ってしまう短いスカートや太もものあたりになるべく目を向けないように苦労していたのだが、外見だけでなくその内面にも特筆すべきものを持った少女であることを、山之内は感じ始めたのであった。

その美那子の声は、少女の声でありながら、どこかに大人の落ち着きを持った声であった。
音が低いわけではない。
その口調に、まるですでに長い人生を歩んできた者の持つ深みが感じられるようであった。
けいこ場の男たちは、美那子の声に新鮮な心地よさを感じるのだった。
美那子の声の余韻を楽しむかのような静寂が、少し長すぎると思われるほどに、続いた。

やがて山之内はけいこ場のたたみの一角をさし示して言った。
「ここに座って見学するといいでしょう」
美那子は言われるままにその場所に移動したが、そこで立ち尽くしたまま少し顔をくもらせた。
「ここでは正座するのが正しいのでしょうか」
山之内は微笑んで、
「いや、あぐらをかいてもかまわないよ…」
と言ったあとすぐに、はっとして美那子の短いスカートを見た。
「あ、そういうわけにもいかないか…」
言いながら山之内は頭を回転させた。
この礼儀正しい少女にはこの先長いつきあいをしていきたいと思わせる何かがある。
この場合どうしたらいいものか…。
「毛布を持ってくるからひざにかけて座るといい。脚はすきなようにくずしてかまわないよ」
考えた末に山之内はそういうと、美那子を立ったまま待たせておき、毛布を取りに道場の奥へと歩き始めた。
背後から美那子の「ありがとうございます」という声が聞こえた。
山之内は歩きながら振り返らずに片手を軽く上げてこの声にこたえた。
道場の若い衆は毛布であの脚を隠すことでがっかりするに違いないなどと考えながら苦笑いし、五十歳近くなって自分の娘ほどの年齢の女性に心を乱されている自分を、少し恥じる気分になった。
道場の事務室では都合よく、かつての道場の事務員がひざ掛けに使っていた薄い毛布が見つかった。
しかし、この後、美那子がこの毛布を使うことはなかった。

2. 間違われた見学者

山之内が毛布を手に戻ってくると、けいこ場の入り口に、明らかに今外から入ってきたと思われる見知らぬ男がこちらに背を向けて立っていた。
見知らぬ男はビジネスマン風のスーツを着込んでおり、背後から見て年齢は二十代か三十代に見えた。
他の門徒たちは、先ほど突然現れた少女の整った顔や魅惑的な服装に注意を奪われ、このスーツ姿の新参者にはほとんど気がついていないようであった。
山之内は男に声をかけた。
「見学にいらした方でしょうか」
見知らぬ男は山之内の方に振り向き、山之内はその顔を見て理由のわからない違和感を覚えた。
《少なくとも、この近所に住んでいる人間ではない》
根拠はないが、そう感じた。
そのあと山之内の問いに対して男が発した日本語には文法の間違いはなかったが、あきらかに日本人ではないことを示す抑揚があった。
「ここで 一番 強い のは 誰ですか」
それを聞いた山之内は微笑んだ。
長く道場をやっているとたまにこういうことを言ってくる訪問者がいる。
目の前の男も、どうやら日本の武術に興味を持った外国人ということなのだろう。
山之内はゆっくりと丁寧な語調で答えてやった。
「私がここの道場主です。私が皆さんに護身術を教えています」
するとスーツの男は意外なことばを返した。
「私は この星に 戦いに 来たのでは ありません。しかし あなたが どんな 護身術で 私から 身を 守るのか 興味が あります」
山之内の顔から笑顔が消えた。
そのとたんに、スーツの男は山之内の白い道着の胸元をつかみ、重力などないかのように山之内の体を持ち上げると、そのままけいこ場の中に歩いて入った。
けいこ場内の全員がその様子に驚いて再び動きを止めた。
スーツの男は山之内を片手で持ち上げたまま歩き、けいこ場の中心あたりまで来ると、静かに山之内をたたみの上におろして立たせた。
状況が把握できない大勢の門徒たちは、全員が自然とけいこ場の端の方に退き、中心の山之内とスーツの男を大きな輪で取り囲むかたちとなった。
毛布を待って立っていた美那子も他の門徒と同じく驚きを隠せず、けいこ場の板の壁に背をつけてぼう然となりながら、中心のふたりを見ていた。

見ればスーツの男は全身整った身なりでネクタイもしているが、道場に入ってくるときに脱いだのか、くつは履いておらず、その足に黒い靴下を見せていた。
「あなたは一体何を…」
山之内は言いかけたが、スーツの男が首をかしげる動作とともに山之内が突然腕にかかえていた毛布を取り落とし、つづけて仰向けに倒れたことで、そのことばは中断された。
山之内は仰向けのまま自分の腹に両手をあててうめき声をあげた。
すべての門徒たちが一部始終を見ていたが、何が起こったのかを把握できた者はいなかった。
まばたきすらせず見ていた美那子にも、山之内が自らの意思で倒れたとしか思えなかった。
山之内のうなり声しか聞こえないけいこ場内で、スーツの男がまたおかしな抑揚のことばを発した。
「すみません 私が 速すぎて 護身 できません でしたね。」
山之内はあまりの痛みにことばが出ないのか、倒れたままうめき声をあげるのみだった。
門徒の一人が山之内にかけ寄り、しゃがみこんで「先生大丈夫ですか」と心配そうに呼びかけたが、他の門徒たちは、混乱する頭でどうすべきかを考えるのは荷が重いらしく、誰も動かず、誰もことばを発しなかった。
とにかく、見えないほどの速さで、山之内が腹に攻撃を受けたということらしい。

スーツの男は、けいこ場内を見まわしながら言った。
「お弟子 さんが たくさん いますね。この 中の リーダーは…」
スーツの男の、獲物を探すかのように動きまわる目が、美那子の姿を見つけて止まった。
「ひとりだけ 道着の 違う あなたですね」
他の全員が白い道着を身につけている中で、普段着のまま見学に来ていた美那子のことを、スーツの男は勘違いしたようだった。
美那子は狼狽した。
「いえ、私は見学…」
美那子のことばが終わらぬうちに、スーツの男は大股に美那子の目の前に歩いてくると、美那子のブレザーの胸元をつかんで持ち上げ、先ほど山之内を運んだときのように、けいこ場の中心に美那子を運んでおろしてしまった。
美那子が声を上げる間もない、せつなのできごとだった。
中心で倒れていた山之内は、先ほど声をかけていた弟子が引きずっていき、けいこ場の端で介抱を受けているのが見えた。
スーツの男の信じられない速さと力を目の当たりにしたばかりの門徒たちには、この男に歯向かうという概念は浮かんでこないかのようだった。
美那子は恐ろしさでその場にしゃがみ込んだ。
普段は大勢の目の前で短いスカートでしゃがみ込むような真似は絶対にしないにしても、今は体がいうことを聞かないのだった。
門徒の男の何人かが、そこにしゃがみ込んだ少女の太ももあたりに注目したかもしれないが、この緊迫した状況では、それは単なる条件反射的なものに過ぎないはずだった。
スーツの男は言った。
「あなたは ケンガクと いうのですか。私の この星 での 名前は ケレール」
美那子はあまりのことにことばが出ず、自分の体が恐怖で震えているのを感じるのみだった。
《誤解されてる。いや、それよりも、異星の者がすでにこの地球に来ている…?》
美那子の考えがまるでそのケレールと名乗る男に聞こえでもしたかのようだった。
「そう です。みんな まだ 気づいて ないですが 前から たくさん 来て います」
驚いて美那子は「ケレール」の顔を見上げた。
ケレールはまた美那子のブレザーの胸元をつかみ、美那子をむりやり立ち上がらせた。
「脚に 力が 入らない ようですね。私が 怖くて 立てなく なりましたか」
ケレールがつかむブレザーにぶら下がるように立っている美那子であったが、先ほどからのケレールの丁寧なことばづかいや、きちんとした服装、会話の意図の明瞭さなどから、わずかに安心してもいいのではという気持ちが芽生えてくるのを感じた。
苦労したが、美那子は脚に力を入れて自力で立っていることができるようになった。
ケレールは美那子のブレザーを放した。
美那子はまだ震える声で、しかしはっきりと、ケレールに伝えた。
「私はリーダーではありません……さっき初めてここに来た見学者で、この中では一番弱いです」
ケレールはそれを聞くと、どうやら笑顔らしき表情を作り、美那子に言った。
「それは すまない ことを しました。怖かった でしょう」
そしてなぜか美那子を足先から頭のてっぺんまでじっくり眺めたあと、
「それに 一番 弱い とは 気の毒 です。お詫びを かねて 私の 力を 少し わけて あげます」
と言いながら、再び左手で美那子のブレザーの胸元をつかみ、右手で美那子のスカートの裾をつかむと、しばらくそのまま動かなかった。
もともと短い少女のスカートが、裾をつかまれてほんの少し持ち上げられた構図となっていたが、美那子と同じ理由で少し安心し始めていた門徒の男たちにとって、今の美那子の姿は充分刺激的であったらしい。
中には身を乗り出してその様子を見ようとする者さえいた。
わけもわからず美那子は硬直していたが、ケレールは突然美那子から離れ、けいこ場の外に向かって歩き出した。
そして、けいこ場の入り口まで行くと振り返り、再び美那子に声をかけた。
「私の 力を 直接 あなたの 体に 注ぎ込む のは 危険 なのです。ですから あなたの その 道着に 注ぎ込み ました」
その場の全員がぽかんとしてケレールの方を見つめていた。
ケレールは続けた。
「その 道着を 着ている とき だけ あなたは 少し 強く なれます。
 これを やると 私は しばらく 自分の 力が 出せません。
 また 後日 改めて 皆さんの 護身術を 見に 来ます」
そう言うが早いか、ケレールは背を向けて去って行ってしまった。
誰もがしばらくケレールの去った方角を見つめていたが、やがてその目はけいこ場の中心に立つ美那子の方へ向けられていった。
ぼう然としながらも、ふとそれに気が付いた美那子は、ケレールがつかんだせいで乱れていたブレザーと、同じ理由で軽く持ち上がっていたデニムスカートの裾を正すと、倒れたままの山之内の方へ歩いて行った。
「すみません、気が動転しているのでこのまま帰らせていただきます」
聞こえているのかどうかもあやしい山之内にそう声をかけると、美那子は足早に道場の玄関に行き、そこに脱いであった自分のブーツを履くと、まだ混乱した頭のまま、道場をあとにした。

少女が去ったけいこ場の中では、徐々に門徒たちのざわめく声が聞こえ始めた。
突然、その中の三人の若い男がけいこ場を飛び出し、更衣室に入ると、わずか数分のうちに道着から普段着への着替えを済ませ、さらに道場の玄関から外に飛び出した。
道場の門の前で三人の男は方角を迷うように辺りを見まわし始めた。
三人とも二十歳前後と見える。
どの男も体が大きく、屈強だった。
「たぶんこっちだ」
三人のうちでもっとも背の高い男が、その先に高級住宅街がある方角を指さして言った。
隣りにいたやたらと太い腕の男がそれに賛成した。
「へっへ、ああいう上品そうな女なら、たぶんあっちに住んでるな」
もうひとりのメガネをかけた男も、うなずきながら言った。
「違ってても、絶対見つけてやりますよ」
三人の男は気味の悪い笑みを顔に浮かべながら、今去ったばかりの少女の追跡を始めたのであった。

3. 捕らえられた獲物

道場の玄関で身につけた真っ白なハーフブーツが、今日ばかりは重く感じられる。
部活の陸上競技で毎日のように体を鍛えている美那子にとっては、あまり感じたことのないタイプの疲労感だった。
極度の恐怖と緊張が、いつも活発な少女の脚をもつれさせ、ただ歩くことにも困難を感じさせていた。
《さっきのは本当に異星の者だったのかしら》
美那子がぞっとするのは、他の人間と何ら見かけが変わらない先ほどのスーツ姿の男が実は地球の人間ではなく、片手で軽々と山之内のような大人の男を持ち上げ、人間の目に見えないほどの速さで攻撃してきたことだった。
そして、そんな人類の運動能力をはるかに超越した異星の者がすでに地球にたくさん来ているという話が、さらに美那子を恐怖の闇の中へと押しこんでいくかのようだった。
抑揚はおかしいにしても正しい日本語をマスターしており、あのような姿で現れたからには、知能も地球人と同等かそれ以上であることは明白だと思えた。
《もし攻撃されたら絶対勝てない》
美那子はこの絶望が思いすごしであることを願いながら、ふらふらと歩き続けるのだった。

時刻は正午に近づいている。
「おい、あそこにいるぜ」
道場をあとにした見学者の少女を追跡していた三人の男が、とうとうその獲物を見つけた。
紺色のブレザー、デニムの真っ青なミニスカート、そして白いハーフブーツといういでたちの少女は、よく晴れた空の下、小さな森ほどの茂みに囲まれた、ひとけのない道にさしかかったところだった。
東京の中でも都心から数十分も電車に乗れば、ひとけのない空間がまばらにあるこのような郊外の街に出られる。
それは、地方と都会の良さと悪さがまざりあった、危険な場所ともいえた。
「この先に、行き止まりのわき道に入る分かれ道がある…。
 そこのわき道に引きずりこんでしまえば、まず人が通りかかることはない。
 まずは分かれ道まで気づかれないようにあとをつけるぜ」
三人の中で一番背の高い男がそう言いながらふたたび気味の悪い笑みをその顔に浮かべた。
ふらふらと歩く美那子の数十メートルうしろを、三人の屈強な大男がつけていた。
美那子が一度でもうしろを振り返ればその異変に気づけたに違いないが、道場でのショック状態が抜けきらない美那子に、その余裕はないようだった。
一番腕の太い男が、前方の少女を眺めながら、自分のズボンの後ろのポケットからつぶれた野球帽を取りだし、げんこつで中をたたいて広げると、頭にまぶかにかぶって、言った。
「きあい入れていくぜ、待ってろよ太ももちゃん、へっへ」
その隣りを歩いていたメガネの男も音をたてて舌なめずりをしてみせ、嬉しそうにしゃべり始めた。
「あんなにかたちのいい、つやつやの脚、めったにないですね。
 脚をちょっと動かすたびに『見えそう』で危なっかしい、あのデニムミニもたまりません…。
 顔だけ見ても映画に出てきそうな美少女なのに、さらにあのプロポーション!
 道場であの女がしゃがみこんで中の白いものが見えたとき、僕は決めたのです……絶対このカメラに収めてやるって」
そう言いながらポケットから携帯電話を取りだすメガネの男を、長身の男はあきれたように眺めた。
「おいおい、撮影するだけかよ」
腕の太い男が長身の男の背中をたたいて言った。
「こいつが写真だけで済ませるわけないだろう……へっへ、おれもな、あの女がしゃがんだあの瞬間から我慢ができないんだ。
 わき道に引きずりこんだらまずは思いっきり開脚させて、間近でもう一回中を見せてもらうぜ、じっくりとな」
長身の男もうなずきながら、悪意にゆがんだ笑みをさらに濃くした。
「おれもあのとき見えた。
 めったにお目にかかれないような上モノなのに、あの短いスカートで、しかも『白』だなんて、今日は本当に最高の日だ…。
 あと、お前たちはスカートの中だけに注目してるが、あの女のブレザーがつかまれて乱れたとき、かわいい、形のいい胸のふくらみが目立ってたのもおれは見逃してない……あれは確実に上から下まで楽しめる女だ」
長身の男はそこまで言うと、自分たちの邪悪さを少しでも正当化したいかのように、つけ足した。
「わかってると思うが、異星人の襲来で世の中どうなるかわからないからな、楽しめるときに楽しむのが正解ってもんさ…」
前方の美しい獲物を品さだめするように眺めながら、三人の男の邪悪な会話は、いつまでもあふれだすように続くのだった。

三人は気づいていなかったが、三人のすぐそばの道端の茂みの中に、スーツ姿のふたりの男がひそんでいた。
三人が行ってしまうと、スーツ姿のひとりが特徴的な抑揚で言った。
「私が 間違った のが きっかけで、 あの 見学者が 悪い 男たちに 目を つけられて しまった」
それは、さきほど道場に現れたケレールの声に違いなかった。
もうひとりのスーツ姿の男が、声を発した。
「地球人のいざこざには 関与 しないほうがいいと 思うよケレール」
それはケレールよりは若干流暢な日本語だったが、それでも抑揚に不自然なところがあるのは事実だった。
「助けに いく べきでは ない かな? フォルティス」
フォルティスと呼ばれたその男は考え込んでしまった。
ケレールもまた、フォルティスの返事を待っているのか、無言のままだった。
しばらくの間、辺りには茂みに潜む虫たちの声だけが聞こえていたが、やがてフォルティスが、低い声で言った。
「かわいそう ではあるが私なら 手を出さない。
 われわれが地球人と 戦っても意味が ない。
 それにケレールがあの 少女の服に力を与えた なら自力で 助かる可能性も ある」
それを聞いてケレールが、自信のなさそうな口調でことばを返した。
「うん あの ブーツさえ 脱げば な」

ゆっくりと帰路を歩む少女が、とうとう三人の男たちが待ち望んでいた分かれ道にさしかかった。
今まで少女との一定の距離をたもっていた三人の男たちは、歩みを早め、少女の背後に近づいた。
美那子が背後のかすかな物音に気づき、振りむこうとしたときには、もう遅かった。
野球帽をかぶった腕の太い男が、両手を合わせて作った大きな握りこぶしを高く振り上げ、そのまま美那子の後頭部へと振り落としたところだった。
どうやら脳しんとうですぐに気を失ったらしく、地面に倒れこもうとする美那子を、長身の男が抱きとめた。
メガネの男が、気絶した美那子の呼吸や脈を、その身体に楽しそうに触れながら確認して、言った。
「いい力かげんで殴ってくれましたね。上出来ですよ、田中くん」
田中と呼ばれた腕の太い男は満足げな表情で頭の野球帽をとり、また自分のズボンのポケットにしまった。
メガネの男は続けた。
「しかし、軽めの脳しんとうだから、意外と早く目が覚めるかもしれません」
そして、気を失った美那子を抱きかかえてその整った顔に間近で見とれている長身の男に言った。
「長谷川くん、その女を早く人目のつかないところまで運びましょう」
長谷川と呼ばれた長身の男と田中が美那子の両肩を、メガネの男が美那子の両足を持ち、わき道の中へと運び始めた。
デニムスカートからのびる少女の両足をそれぞれ両手で持って運んでいるメガネの男を羨ましく思ったのか、田中がメガネの男に声をかけた。
「へっへ、小島の側からだと中を見放題だろ?」
メガネの男は小島という名前のようだ。
小島は田中に笑い返し、おどけて少女の脚を少し広げて中をのぞき込む動作をしてみせた。
しかしそんなことをしなくても、小島には少女のスカートの中の白いものが先ほどからはっきり見え続けていた。

やがてわき道からもそれ、深い茂みの中へと美那子を運び込むと、男たちはやわらかそうな落ち葉の上に少女の体をおろした。
「見てください、まさに天使の寝顔です」
小島はそう言いながら、運搬作業中に少しずれた自分のメガネの位置を正し、気絶した少女の足元の方に立つと、全身が入るように少女を撮影した。
「スカートの中だけを撮影する輩がいますが、こういう写真は顔が入ってないと意味がないんです…」
邪悪な理論をとなえると、小島は続けて言った。
「もう一度言いますが、警察に捕まりたくなかったら、絶対に服を破ったり汚したりしないでください。
 ケガさせるのも絶対NGです。
 この女が目を覚ます前に元の場所に戻して、襲われたことすら気づかないようにするんですからね。
 その前に撮れるだけ撮って、さわれるだけさわって楽しむ計画なのをくれぐれも忘れずに」
田中がやたら太い腕を分厚い胸板の前で組み、ため息をついて、それに答えた。
「ああ、仕方ないな。前科者にはなりたくない…」
長身の長谷川も地面に横たわった少女を見下ろしながら言った。
「最近はDNA鑑定があるからな…。襲われたことに気づかれなければ、それも心配ないってことか。」

すぐに田中が、意識のない少女の上半身を起こし、近くにあった太い木のそばまで抱きかかえて運ぶと、少女の背中を木の幹にもたれかけさせ、落ち葉の上に座った状態にさせた。
「やらずに、さわったり撮影したりするだけなら、座らせた方がいいだろう」
そう言いながら田中は美那子の足首を持って片ひざだけを立たせ、その上に美那子の片腕を置いた。
さらに美那子のもう片方の手は、地面の上で外向きに折り曲げられている方の脚の、足首あたりに添えるのだった。
ただそこにいるだけでも輝くような若さと美しさを見せつけており、男たちとっては本来高嶺の花である少女の身体が、田中のような粗暴で屈強な男に好きなように操られている様子は、見ている長谷川と小島の気持ちをさらに高揚させた。
ほぼ直角に開かれた少女の脚と脚との間でピンと張ったデニムのスカートの中を凝視しながら、小島が褒めた。
「いいポーズをさせるじゃないですか」
気絶したままの美少女は、首を自分の片方の肩の上に倒しており、その全体像は、スカートの中身を相手に見せていることに気づかぬまま片ひざを立て、疲れて座り込んでいるようにも見えなくはなかった。
長谷川はそれをそのままことばにした。
「下着を見られてることにも気づけないほど疲れて座りこんだ清純派ミニスカートちゃんの図!」
言うが早いか長谷川がシャッター音をたててその姿を撮影すると、三人の笑い声が起こった。
田中もそれに触発されて妄想をたくましくしたのか、眼下の少女を手で示しながら言った。
「悪者に攻撃されたダメージでダウンしたまま動けなくなった正義のミニスカートちゃんの図!」
小島が続けて、
「気を失ってる間に三人の男たちにこんなポーズをとらされた哀れなミニスカートちゃんの図!」
と言うと、
「そのままじゃないか!」
という残りのふたりの即座の指摘が入った。
つづけて三人の笑い声と携帯電話のシャッター音が鳴り響いた。

その近くの茂みの中で、小さな声の会話が交わされていた。
「何か思ったような危険な 暴力はおこなわれて いないぞケレール」
「いや もう しばらく 様子を 見た ほうが いい フォルティス」

しばらく続いた激しいシャッター音が静まると、田中が、少女をかついで歩いてきた元の方向へ足を踏み出しながら、言った。
「来る途中、藪の中に椅子が捨てられてるのを見かけたから、それを取ってくるぜ」
長谷川はうなずいて、歩いていく田中のせなかに嬉しそうな声をかけた。
「ああ、たのむ。触りまくるにも、写真撮るにも、椅子に座らせた方が都合がいい」
小島も同じく嬉しそうに言った。
「椅子があるなんて最高だな」
数分後に田中が予告どおり大きめの椅子を担いで戻ってくると、残っていたふたりの男は気絶した少女の左右に陣取り、それぞれ自分の側の少女の足首をつかんで、さまざまな方向に動かして楽しんでいる最中だった。
運んできた椅子を地面に置いた田中は、見え隠れする少女のスカートの中の白いものや太ももの質感を観賞しながら、その場に立ちつくしていたが、長谷川がそれを見て声をかけた。
「これは暇つぶしさ。お前がいない間にやりすぎるのも悪いと思ったからな」
そして、田中が地面に置いた椅子を見て、褒めた。
「立派な椅子じゃないか!」
椅子は金属製で、業務用らしく肘置きのついたものだった。
クッション部分が少し破れている以外はどこも壊れていないらしく、ぐらつきもなかった。
「これを不法投棄してくれた人に感謝ですね」
小島は言いながら、いったん自分で椅子に腰かけてみてその安定度に満足すると、すぐに立ち上がり、その椅子を持ち上げて、気絶した少女の隣りへと運んだ。
長谷川が言った。
「美少女とミニスカートと椅子!これほど相性のいいものはほかにないな」
田中は早速、木の幹によりかかって気を失っている美那子の身体を、両脇をかかえて持ち上げ、椅子の上に座らせた。
美那子のデニムスカートは、椅子にすわればその中の白いものを前方の男たちに見せないわけにはいかない短さだった。
椅子に浅く腰かけさせられていたので、少女の身体は半分寝ているような姿勢で、首は少し倒れていたが椅子の背もたれのクッションと少女自身の肩とでうまく支えられ、その整った顔がはっきりと見える状態となっていた。
妖精か天使に例えるしかないそのあまりに美しい姿をほれぼれと見つめながら、三人はまたこの状態の写真を何枚か撮った。
長谷川が美那子の全身をすみずみまで凝視しながら言った。
「さっきのことばを補足しよう。美少女とブレザーとミニスカートと白いブーツと椅子!これにかなうものはない」
小島がさらに小声でつけ足した。
「…プラス、白いパンティ」
小島は椅子に歩みより、気を失った少女の、白いブーツをまとった片脚を持ちあげて椅子の上に置き、先ほど田中が地面でやったように、片ひざだけを椅子の上で立たせた状態にした。
再び美少女の両脚はほぼ直角に開かれ、椅子で位置が高くなったぶん、さっきよりもスカートの中が格段によく見えるようになった。
しかも椅子の背もたれのクッションのおかげで少女の美しい顔もよりはっきり見える角度となっており、それは強制的に開脚させられたミニスカートの美少女が放つ途方もない色気に、地面に座らせていたときとは比べものにならないほどの迫力を、つけ加えていた。
美那子のこの姿で、三人の男の我慢のバロメーターが振りきれたようだ。
三人は携帯電話をポケットにしまいこむと、無言でゆっくりと気絶した少女の方に歩みよって行った。

4. 覚醒した戦士

行き止まりの小道をさらにそれた場所にあるこのような森の中に、通行人が通りかかることはまずないといっていい。
近所に民家もなく、たとえ声を上げて助けを求めた者がいたとしても、その声が誰かに届く可能性はゼロに等しい。
17歳の少女、白神美那子は、薄いピンク色のブラウスの上に紺色のブレザーを羽織り、腰には青いデニムのミニスカート、脚には白いソックスと白いハーフブーツを身につけていたが、そのたぐいまれなる美貌と服装が、邪悪な三人の大男を刺激してしまい、襲われて気を失っているのであった。
美那子は、森の中で男たちが拾ってきた椅子に意識のないまま座らされ、ミニスカートの中の白い下着をあらわにした状態を、その美しい顔といっしょに撮影されたところであった。
「こんなに挑発されちゃあ、もう、脱がせずにはいられないよな」
長身の男、長谷川が仲間のふたりの男に言った。
「ああ、早くしようぜ」
やたらと腕の太い男、田中が答えてそう言った。
もうひとりの男、小島はゆっくりと自分のメガネを押し上げ、こう言った。
「私も不本意ながら、我慢できなくなりました。
 最初の計画にはないことですが、仕方ありません。
 どうでしょう、せっかくの機会なので、一枚脱がせるごとに、その姿を撮影しておきたいのですが、かまいませんか?」
長谷川と田中は顔を見合わせたが、すぐに小島の方に向いた。
長谷川の方が先に言った。
「かまわないさ。最後は裸にするなら、あとは好きなようにやってくれ」
田中は少し考えて、こう言った。
「おれの趣味的には、上半身ブレザーに、下半身はパンティと白いブーツっていう姿を撮影しときたい。
 だから一番先にスカートを脱がせてもらえるとありがたい」
小島はそれを聞いて邪悪な笑みを浮かべ、賛同した。
「いい趣味ですね、ぜひそうしましょう。」

三人の男からは見えない近くの茂みの中で、小さな声のやりとりが行われた。
「先に ブーツを 脱がすか スカートを 脱がすかが 彼らの 運命の 分かれ道だ」
「ブーツが 先なら助けに行く 必要はなくなるな」

「スカートを脱がすのは、おれにやらせてくれ」
田中は言うなり、気絶して椅子におさまっている少女の前にかがみこむと、少女のブラウスの裾をあげて、デニムスカートの前面のホックを外しにかかった。
少女はベルトをしていなかったため、前面のホックをはずし、ジッパーをおろせば、短いスカートは容易に脱がせることができそうだった。
そこに長谷川が近づいてきた。
「しかし、ミニスカートって便利だよな。
 その気になれば、ほか全部そのままで、パンティだけ脱がせばことを終わらせられるんだから」
その長谷川のことばを聞いて田中が手を止めた。
田中は長谷川の顔を見て、言った。
「そういうの、おれも大好きだぜ。
 一回スカート脱がせて撮影したら、また履かせて、そうするかい?
 この、ある意味コスプレみたいな服装のままやっちまうのも、絶対いいぜ」
長谷川は笑いながら言った。
「この女は、ブレザーフェチ、ミニスカートフェチ、ブーツフェチのすべてを満足させる服装をしてるからな。」
それを聞いて小島がつけ足した。
「僕はさらに、白いパンティ、白いソックスフェチでもあります。
 この基準でもこの女は合格ですね」
長谷川がうなずきながら言った。
「何より、この女の顔とプロポーションが最高だ。
 これがなけりゃ、ほかのことは全部意味がなくなる。
 絶対この女は、最後に全裸にするんだぜ」
少女のスカートのシッパーを下ろしながら、田中が請け合った。
「おう、まかせとけ」
やがて、足先のブーツをすり抜け、美少女のデニムスカートは完全に取り外された。

気を失ったままスカートを奪われた美那子はいまや、上半身はブレザー、下半身は白い下着にブーツを履いているという状態であった。
三人の男は何度も携帯電話のシャッター音を響かせた。
「たまらんね」
撮影しながら田中が言った。
小島が少女に近寄り、先ほどのように片ひざだけを椅子の上に立たせた。
それはまた三人の男にとって魅力的な構図ではあったが、そのポーズをとらせた本人の小島は、
「この女を縛るロープでもあれば、さらにいい味わいの写真が撮れるんですが…」
といかにも惜しそうに言うと、慎重にアングルを決めたあと、少女の全身がおさまった最後の一枚を撮影した。
この状態の少女をロープで縛るという発想にさらに気分を高揚させられたのか、長谷川はまだシャッター音を響かせている田中に向かって、
「撮影はそろそろいいんじゃないのか」
と言った。
田中はなごりおしそうにさらにあと数枚を撮影し終わると、予告どおり、いったん脱がせた少女のデニムスカートを、白いブーツを通して再び履かせ始めた。
長谷川は、それを見ながら言った。
「さて、誰が最初にやるかって話だが……」
三人の男に、しばらく沈黙の時間が訪れた。
「じゃんけんでいいんじゃないのか」
田中が提案した。
長谷川はそれを予期していたかのごとく、小刻みにうなずきながら、
「やっぱそうだよな、いいだろう」
と言った。
小島も、
「僕もそれでいいですよ」
と賛同した。
じゃんけんの結果、最初は長谷川ということに決まった。
ほかのふたりは少し離れた場所に座りこみ、順番待ちのためにそれぞれ自分の携帯電話を取りだして、暇つぶしを始めた。
長谷川はしばらく迷っていたが、やはりまず少女にパンティ以外のすべてを装着させた状態でことを楽しむことにしたらしく、気絶した少女のミニスカートの中に手を入れようとしたが、そこで少女の足先の白いブーツに目をとめた。
「先にブーツ脱がせないと、パンティが脚を通らないな…」
長谷川はつぶやいて、少女の白いハーフブーツを脱がせにかかった。
美那子のハーフブーツにはくつひもなどはついておらず、引っぱるだけで脱がせることができそうだった。
予想通り、少女の左脚のブーツを右手で引っぱると、それほど苦もなくすっぽりと脱げた。
そこで長谷川はまた迷った。
「パンティを片脚だけ脱がせて、片脚につけたままにしておくというのも好きなんだが、おれがやってる間に匂いをかいでいたいやつがいるなら、完全に脱がすけど、どうする?」
長谷川の問いに、田中と小島が同時に手を挙げた。
三人は笑い、長谷川がもうひと仕事といわんばかりにつぶやいた。
「じゃあ、こっちのブーツも脱がすか…」
長谷川は残った少女の右足のブーツをつかみ、引っぱり始めた。

三人からは見えない茂みの中で、例の小さな声の会話が行われた。
「助け なくても大丈夫そうでよかった なケレール」
「ああ 一時は どうかる ことかと 思ったよ フォルティス」

長谷川はとうとう、美那子のもう片方のブーツを抜き取った。
すると気を失っていたはずの少女は、突然両目を開き、首を持ち上げた。
それに気づいた長谷川は驚いて片手に白いブーツを持ったまま立ち上がった。
ほかのふたりの男もその異変に気がつき、こちらを見た。
美那子は目の前にいる長谷川やその向こうにいる田中と小島を見て、数秒で状況を把握した。
とたんに、恐怖が美那子の心を占有し、立ち上がる力が出なかった。
長谷川は、目の前の少女が逃げ出すことを恐れ、まずはおさえこもうと一歩美那子の方に踏み込んだ。
座ったままでも自分の足先が届く場所に目の前の男がいることに気づき、美那子は少しでも抵抗しなくてはと思い、脚を動かそうとした。
次の瞬間、長谷川は地面の上に仰向けに倒れこんだ。
長谷川の体の死角になって見えなかったが、椅子の上の少女が長谷川を蹴ったに違いないと思った田中と小島が、美那子のところに駆け寄ってきた。
しかし、美那子をおさえこもうと近づいたとたん、ふたりの男もその場で仰向けに倒れこんだ。
三人の男は地面の上に倒れたまま、攻撃された痛みに苦しみ始めた。
三人のうちで、少女が自分を攻撃したのが見えた者は、誰もいなかった。

5. 森からの逃亡者

自分を襲おうとしたらしい三人の男たちは、全員地面に仰向けに倒れてうめき声をあげている。
この場所にはほかには誰もいないようだ。
気絶状態から目覚めたばかりの美那子は、目の前の男たちの邪悪な意思におびえながらも、ようやく椅子から身を起こし、落ち葉で覆われた地面を白いソックスで踏みしめて、立ち上がった。
身を守ろうととっさに放った自分の蹴りは、椅子に座った状態からであるにもかかわらず、うまく当たって男たちに大きなダメージを与えたようだ。
力もそれほど強くない自分の攻撃があっという間に男たちを倒してしまったことを不思議に思いつつも、美那子は地面に転がっていた自分の白いハーフブーツを左右とも拾い上げ、足元でうめく三人の男たちを飛び越えて、茂みが開けていると思われる方向へ走り出した。
護身術の道場を出た直後に感じた先ほどの疲労感はうそのように消えており、自分の体がまるで体重などないかのように地面を蹴ってかろやかに進んでいくので、美那子はまた不思議だと思った。
やがて、自分の背丈と同じぐらいの木の柵に行く手をはばまれ、美那子は立ち止まった。
木の柵をさかいに森は終わっており、柵の向こう側は背の高い草が密集した空き地になっていた。
男たちから一刻も早く離れるために、逃げる方向をあまりよく確認せずに走ってきたが、また元の方向に引き返す気にはとうていならなかったので、美那子は目の前の高い柵を乗り越える決心をした。
その前に、両手に持ったままのハーフブーツを足に履いた方がよさそうだと思った美那子は、ソックスの下の汚れをはらおうと、片足を持ち上げて自分の足の裏を見た。
そこでまた美那子は不思議だと思った。
森の中をけっこう走ってきたはずなのに、ソックスはまったく汚れておらず、真っ白だった。
確認すると、もう片方のソックスも同じだった。
思えば、起伏が多く木の枝やとがった石やゴミなどが落ちているはずの森の中をくつも履かずに走って、少しの痛みも感じなかったこと自体、ありえない。
もしかしてこれは夢なのではと思いながらも、美那子はまず自分の左足に白いハーフブーツを履かせた。
とたんに、美那子の後頭部を激しい痛みが襲った。
路上で後頭部を殴られて気を失ったことを思い出し、美那子は両手で頭をかかえてその場にしゃがみこんだ。
同時に背後から静かな足音が聞こえた。
驚いて美那子が振り返ると、そこにはふたりのスーツ姿の男が立っていた。

スーツ姿のふたりの男は同じような背丈で、同じような雰囲気の顔をしており、一見双子のようでもあったが、そのうちのひとりの顔に、美那子は間違いなく見覚えがあった。
先ほど道場に現れたケレールと名乗る男だ。
安心していい相手なのかどうか判断できなかったが、今は後頭部が激しく痛み、抵抗などできそうになかった。
たとえできたとしても、道場で目の当たりにしたような超人的な動きをするこの男の前では、すべてが無駄だろう。
美那子は片手で後頭部をおさえながらもゆっくりと立ち上がった。
「ああ 無理 しなくて いいです」
ケレールはそう言うと、片手を差し出し、美那子のジャケットの肩の部分をつかんだ。
ケレールが美那子の体を吊っている状態となり、美那子は体にそれほど力を入れなくても立っていられるようになった。
好意なのかもしれないが、美那子は落ち着かなった。
何と言っていいのかわからず、とりあえず美那子は無言のままケレールに何度かうなずいて見せた。
なぜか、今のケレールは美那子を支えるためにかなり力をふりしぼっているように見えた。
道場で山之内や美那子を軽々と片手で持ち上げていた人物とは、別人のようであった。
それを見てもう一人のスーツ姿の男が、声を発した。
「そんなことを しなくてもブーツを脱げば楽に なりますよ」
反射的に美那子は自分の左足だけに装着された白いハーフブーツの方を見た。
そして、まるでその男の声に従わなければならないかのように、美那子は機械的な動きで、ケレールにブレザーの肩をつかまれたまま、左足のブーツを脱いだ。
不思議なことだが、男の言ったとおりだった。
後頭部の痛みが消え、自分の体重すら消えてしまったように、体が軽くなった。
ケレールはつかんでいた美那子のブレザーを手放すと、相変わらずのおかしな抑揚で、言った。
「紹介 します 彼は この星では フォルティス と呼ばれて います」
美那子はフォルティスというらしい男の方を見た。
フォルティスはにっこりと笑った。
ケレールが言った。
「あなたの 名前を 教えて くれませんか 一番 弱い 見学者さん」
美那子は一瞬ためらったが、この状況で迷っても意味がないと気づき、ひかえめだがはっきりとした口調で、名乗った。
「白神美那子です」
「シロガミ ミナコ…」
ケレールがオウム返しに美那子の名前を発音した。
フォルティスもまた、ケレールと同じように、美那子の名前を復唱した。
「シロガミ ミナコ」
そしてフォルティスは、地面に転がっていた美那子の右足用の白いブーツを拾い上げた。
美那子が脱いだばかりの左足用のブーツは、まだ美那子が手に持ったままになっていたが、フォルティスが手を差し出してきたので、美那子はわけもわからず、自分の手の中のブーツもフォルティスに手わたした。
「シロガミさんあなたは 今自分が地球上で一番 強い人間になったのを気づいて いますか」
フォルティスのことばに、美那子はぽかんとなった。
しかし、瞬時に道場でケレールが言ったことばを思い出した。

<私の 力を 少し わけて あげます>
<私の 力を 直接 あなたの 体に 注ぎ込む のは 危険 なのです>
<あなたの その 道着に 注ぎ込み ました>
<その 道着を 着ている とき だけ あなたは 少し 強く なれます>

美那子の口から思わずことばがこぼれた。
「まさか…」
ケレールは、美那子の頭の中の混乱を察したかのように、説明を始めた。
「いいですか シロガミさん 私は あなたの その服に 力を 注ぎこみ ました。
 あなたは 今の 服装の とき 地球人の 誰も 真似の できない 速さで 動けるの です」
美那子は愕然とした。
しかし、思い出してみれば、先ほど自分を襲った三人の男を美那子が攻撃したとき、三人とも一撃でダウンしてしまった。
あれがケレールが注ぎ込んだ力のおかげだったと考えると、納得がいく。
ケレールはさらに説明をつづけた。
「速く 動ける だけで なく あなたの 身体は 防御面 でも ほとんど 無敵 になった のです。
 今の シロガミ さんは 火の 中に 入っても 燃えません。
 大きな 岩で 殴られ ても 痛みも 感じ ません」
そう言われて、美那子は殴られた後頭部の痛みが今はまったくないことを思い出した。
ケレールは続けた。
「もちろん その 服に 注ぎ こんだ 力です から その 服が 破れたり 燃えたり すること も ありません。
 汚れる ことすら ない でしょう」
美那子は、森の中を走っても自分のソックスが真っ白のままだったことを思い出した。
しかし、そこで突然、フォルティスが、口をはさんだ。
「ただし」
美那子がフォルティスの方を見ると、フォルティスは両手に持った美那子の白いハーフブーツを目の前に掲げて、言った。
「このブーツを履いた ときのようにほかの 衣類を身に つけるとそのパワーは 消失します。
 ケレールが力を 注ぎこんだときと同じ服装で なければならない のです」
途方もない話だが、目の前のふたりの今の話で、先ほどまでの不思議な出来事のすべてに説明がつくと、美那子は思った。
ただ、美那子の頭の中の混乱がすべて解消されたわけではなかった。
思わず、大きな疑問が美那子の口を突いて出た。
「でも、なぜ私だけに、こんな…」
ケレールが笑顔らしき表情をつくって言った。
「道場 でも 言いました が 怖がらせた お詫び ですよ なりゆき です…」
続けて、フォルティスが言った。
「実はわれわれはあと数日で地球 から引き上げます。
 この地球でも騒ぎになって いますがわれわれの 故郷にも宇宙からの 侵略者が近づいている からです」
美那子の頭は再び混乱した。
そしてまたしても頭に浮かんだことが思わず口を突いて出た。
「今地球に近づいている異星人の艦隊は、あなたたちとは別の星の…?」
ケレールはうなずき、そして、残念そうな様子で言った。
「この 素晴らしい 惑星を 守って あげた かった ですが それどころ では なくなって しまいました。
 護身術の 道場を 訪問 してみた のは あなたたちが どれぐらい 素手で 身を 守れるのか 心配 だった からです」
美那子は、目の前のふたりが敵ではないことがわかり、安心すると同時に、今聞かされた話の中に潜む重要な一面を考えずにはいられなかった。
この超人的な動きをするケレールのような男が恐れる相手が、多数地球に向かっているのなら、もはや人類に抵抗するすべはないように思える。
そして、その未知の異星人が暴力で地球を支配しようとしたときに、立ち向かえるのは、ケレールに力を注ぎこまれた自分だけ…。

美那子はすがるような思いで聞いてみた。
「今まであなたたちの力を注ぎこんだ地球人は、ほかにいないんですか?」
フォルティスがそれに答えた。
「前にひとりだけ親切にして もらったお礼に体に 直接力を注ぎこんだ人間が いました。
 しかし直接体に われわれの力を注ぎこむ ことはその男の精神の 崩壊をまねいて しまいました。
 本当に申し訳ないこと をしました。
 反省してそれ以来人間 にはあまり干渉しない ようになりました」
ことばが終わったあとも、美那子はフォルティスの顔をしばらく見つめていた。
フォルティスは、深刻な表情になっている美那子を気づかうつもりにでもなったのか、笑ってこう言った。
「服の方に力を注ぎ 込むのは全然問題 ないのですよ。
 われわれが疲れて しまうこと以外は ね。
 シロガミさん そんなソックスのまま外を 歩いては目立ってしまう でしょうから…」
言いながらフォルティスは両手に持っていた美那子の白いハーフブーツを再び目の前にかかげて、なにやら力を込めているようなしぐさをした。
「…このブーツには私の力を注ぎ 込んでおきました」
美那子はそれを聞いて驚いて声をあげた。
「え?」
フォルティスは左右のブーツを美那子の方に差し出しながら、言った。
「このブーツだけは身に つけても今のあなたの超人的な能力 は消失しなくなりました。
 ただしケレールの能力 は速く動けることですが私のはそれと 違って地球人とは比較にならない ほどの怪力が出せる ことなのです」
美那子はフォルティスから自分のハーフブーツを受け取った。
フォルティスはつけたして言った。
「このブーツを履けばあなたの スピードは若干落ちるでしょう が凄まじいパワーがあなたの ものになります」
なぜか突然、ふたりのスーツの男は森の奥に向かって歩み始めた。
美那子はぼう然とただ眺めていたが、ケレールが立ち止まり、ふり返って言った。
「シロガミさん さようなら。
 信用 しない わけでは ないの ですが 何かに 力を 注ぎ 込むと われわれは しばらく ものすごく 弱く なります。
 今は われわれ ふたりとも あなたに 襲われ たら 絶対に 勝てません。
 念の ため 早々に 消える ことに します。
 その 力で 地球を 守って くれる ことを 期待 しています」
フォルティスも立ち止まって、別れのことばだけを述べた。
「シロガミさんまた いつか」
再び歩き出し、去っていくふたりのスーツの背中を、美那子は両手に自分の白いブーツを持ったまま、放心のていで見送るのだった。

6. 再び追われる獲物

まだひどく痛む腹をおさえながらも、ようやく長谷川は地面から上体を起こした。
「くっそう…あの女、蹴ってきやがった」
長谷川のそのつぶやきを聞いて、隣りで同じく腹の痛みにうめき声をあげていた田中も、なんとか自分の上半身を起き上がらせた。
「信じられないぐらい、いてえ…」
そうつぶやいた田中の隣りでは小島が仰向けにダウンしていたが、見れば気を失っているようだ。
「こいつ気絶してやがる…。小島はおれたちの中で一番頭はいいが、もっと鍛えないとだな」
そう言うと田中は、ぴくりとも動かない小島の顔からメガネを取り、小島の頬を平手で軽く何度もたたいて、起こし始めた。
小島の「うっ」という声がしたので、田中はたたくのをやめ、メガネをもとの顔の上に戻してやった。
長谷川が田中の顔を見て、くやしそうに言った。
「逃げられちまった!…あんなか弱い女に、三人ともやられるなんて、どういうことだよ」
田中はめんぼくなさそうに、
「たぶんみんな油断したんだよ、かわいこちゃんだったから」
と言ったが、心の中ではそうは思ってはおらず、なぜやられたのか見当もつかなかった。
小島がゆっくりと上半身を起こしながら言った。
「油断してても、してなくても…勝てるわけがなかったんです」
そのことばに驚いて、長谷川と田中がけげんな顔で小島の方を見ると、小島はまだ痛む自分の腹をおさえながら、尋ねた。
「きみたちのうちで、あの女が自分を蹴ったのが見えた人はいますか」
それに対し、田中は何度もすばやく首を横に振ったあと、
「腹に衝撃はきたが、あの女の脚が動くのは見えなかった…」
と答えた。
長谷川も同じく、こう言った。
「何が起こったのかわからなかったが、突然腹をやられた…」
小島は、ずれていた顔のメガネをおし上げて、目の前に置かれた椅子を見つめながら、またも質問を発した。
「道場に現れたあの自称宇宙人が先生を倒したときとまったく同じだと思いませんか」
長谷川と田中ははっとした。

美那子は森のはずれの木の柵の前で、自分の白いハーフブーツを両足とも履いた。
フォルティスの言ったとおり、先ほどのように後頭部の痛みがよみがえることはなかった。
フォルティスは、このブーツで力が強くなると言っていた。
美那子は半信半疑だったが、一番近くにあった太い木の前まで歩いて行き、その半径一メートル以上はあるに違いない幹を、両手で押してみた。
すると、足もとの土が盛り上がり、めきめきと木の裂けるような音がしたので、あわてて美那子は力を抜いた。
信じられなかった。
美那子は今度は片手で軽く、木の幹を押してみた。
やはり、木の裂けるような音が聞こえ、自分の手が押したぶんだけ、木が傾いていく。
《本当にこれは夢なのかもしれない》
17歳の少女は、幹から手を放すと、もうすぐこの夢から目覚めるのを待っているかのように、ぼう然と立ちつくすのだった。

「確かにあのケレールとかいう男は、力を注ぎこんだとかなんとか言ってたな」
長谷川が思い出していうと、小島はうなずいた。
「そう、そしてぼくら三人は、道場でケレールが先生を倒したのと同じように、あのミニスカート女に一瞬で倒されました…」
小島のことばを聞いて田中が確認した。
「本当にあの宇宙人の力がミニスカートに乗り移ったと?」
小島はうなずいて、持論を述べた。
「断定はしませんが、ぼくはそうだと確信しています。
 あのただの道場見学者だった高校二年生の少女は、いまや特撮のスーパーヒロインみたいに強くなってしまったんだと思います…」
にわかには信じられない内容だったが、長谷川はいまも続く自分の腹の痛みが、すべてを物語っているように思えた。
田中は大声をあげた。
「そりゃまずいよ、本当ならすぐにでも追いかけて、警察に連絡される前にあの女を捕まえたいのに。
 たとえうまく追いついたとしても、やられるのはこっちだってことか…」
聞いていた長谷川は思いあたることがあり、それを口に出してみた。
「しかし、道場を出たあとで背後から田中が殴ったらあの女は気を失ったぜ。
 また同じように不意打ちすれば、あの女を捕まえられるんじゃないのか?」
そう言った長谷川の方を見て、小島はやや声に力をこめて言った。
「そこがポイントなんですよ」
小島は少し間をおき、自分を見つめるふたりの男ににやりと笑ってみせ、話を続けた。
「あのケレールは確か、女があの服装のときにだけ強くなれると言ってました。
 確かにそう聞こえましたよね。
 そして、あのときの女の服装は、ブレザーにスカートに…ソックスでした」
それを聞いて長谷川も小島の言わんとすることに気づいたが、そのまま何も言わずに聞くことにした。
小島は続けた。
「田中くんが殴ってあの女を気絶させたとき、あの女は道場の中とは違いブーツを履いていました。
 そしてそのあと、気絶していたあの女が突然目を覚まして攻撃してきたのは、長谷川くんがあの女のブーツを脱がした瞬間でしたよね…」
ここまでくると、田中もその話の意味を理解した。
「わかったぞ!
 あのミニスカートちゃんは道場にいたときの服装だと強いんだな?
 ブーツとか、余計なものを身につけると、普通の弱い女の子に戻るってことだろ?」
そう言う田中は嬉しそうな顔になっていた。
小島はうなずいて肯定した。
「はい、たぶんそうですよ。
 逆に、ブレザーとかスカートとかソックスのどれかを脱がせてもまた、普通の女の子に戻ってしまう可能性が高いと思います…」
田中が腹の痛みも忘れたのか、勢いよく立ち上がって言った。
「つまり何かを着せるか、何かを脱がせれば、勝てるってことだな。
 たとえばこの帽子をあの女にかぶせても…」
そう言いながら田中は、路上で美那子に殴りかかったときにかぶっていた野球帽を、ズボンのポケットから取り出した。
小島も腹をおさえながらゆっくり立ち上がり、言った。
「ブーツで弱くなったんですから、きっと帽子も効果があると思います。
 しかし、こんな森の中を足に何も履かずに進んで行ったとは考えにくいですから、もうブーツを履いてる気もしますがね…。
 それに、あの女はブーツが自分を弱体化させていることに気づいてない可能性も充分あります」
小島のことばに少し希望を見いだし、長谷川も腹の痛みに耐えながら立ち上がったが、先ほどから頭の中にあった不安を口に出さずにはいられなかった。
「しかし、もうすでに、警察に電話されちまってるんじゃないのか…」
それを聞き、小島は自分のズボンのポケットに手をつっこみ、何かを取りだした。
そして、それを顔の前に持ち上げて見せながら言った。
「あの女の携帯電話ならここにありますよ。
 田中くんが椅子を取りに行ってる間に、あの女のブレザーの内ポケットから抜き取っておいたのです」
それを聞いて長谷川はその顔に浮かんでいた不安げな表情を消し去り、小島に称賛を送った。
「おまえは本当にすごいやつだな!
 あのときずっとそばにいたのに全然気づかなかったぜ」
小島は少女の携帯電話をまたポケットにしまいながら言った。
「あのとき長谷川くんは、気絶したミニスカートちゃんを開脚させるのに夢中でしたからね。
 実は私も反対側の脚をひっぱって、協力してたんですがね…。
 さあ、ミニスカートちゃんを追いかけましょう」
田中が勢いよく先頭を切って歩きはじめながら、道路がある方角とは真逆を指さした。
「あの女はこっちに逃げたのを見たぜ」
そう言う田中の手には野球帽が握りしめられていた。

森のおわりにあった木の柵の手前で立ちつくしていた美那子は、はっとわれにかえった。
自分に超人的な力が与えられたという驚愕の事実を、すぐに受け入れられる心の余裕は今はないにしても、頭の中はだんだんと落ち着きを取り戻しているのを感じたので、先ほど自分を襲ってきた三人の男のことに考えを戻し、まずは警察に連絡せねばと思った。
しかし、ブレザーの内ポケットをさぐってみたが、そこにあるはずの自分の携帯電話はなくなっていた。
殴られて気絶し、森を運ばれ、勢いよく走って逃げた今までの経緯を考えると、どこかに落としてしまった可能性は高い。
携帯電話はあとで探すとして、警察まで自分の足で行くことにしよう。
美那子は、自分を襲った三人の男の顔を少ししか見なかったが、はっきりと思い出せる気がした。
そう、護身術の道場にいたとき、大勢の門徒の中に、確かにあの三人を見たと思う。
たぶん警察は道場に問い合わせ、すぐに彼らの身元をつきとめて、逮捕してくれるだろう。
そう考えながら、なにげなく自分のブレザーやスカートの乱れを直すうち、美那子はおかしなことに気づいた。
スカートのホックがまん前ではなく、かなり横にずれた位置になっている。
つまり、身につけたスカートがいつのまにか横にまわっているのだ。
スカートから完全に出していたはずのブラウスの裾も、半分ぐらいスカートの下にはさまっている。
先ほど路上で襲われたときは、うしろから殴られてすぐに気を失ったので、あばれてはいない。
気絶から目覚めたあとも、椅子に座ったまま男たちを脚で攻撃し、そのままここまで走ってきただけだ。
男たちを蹴るために椅子の上で体を回転させたとき、スカートがまわってしまったのだろうか。
いや、それでもブラウスの裾がスカートの下にこんなに入ってしまうのはおかしい。
自分の着ているものがこの状態になっている理由を考えたとき、美那子はぞっとした。
《一度スカートを脱がされた?》
そう考えるだけで、ふたたび頭を強く殴られたような衝撃が、美那子を襲った。
頭の中はほかの可能性を探そうと全力で働いていたが、どうしてもほかの解答が見つからなかった。
目の前が真っ暗になった少女は両手に顔をうずめ、その場にしゃがみこんでしまった。
まるで恐ろしさと悲しさと悔しさが入りまじった重力が、少女を押しつぶそうとしているかのようであった。
やがて、森の中で鳴き続ける虫の声に囲まれながら、顔をおおう手のひらから涙がこぼれ落ちたころ、ある疑問が少女の頭に浮かび上がっていた。
《脱がされたのはスカートだけなの?
 一度脱がせたスカートを、なぜまた履かせたの?》
美那子は手の中から顔を上げた。
絶対そうは思いたくないにしても、この状況では、ことが終わって男たちが満足したから、また服を着せたと考えるのが自然だ。
だが、今の自分の体には、そんなことをされた気配はまったく感じられない…。
美那子は辺りに人がいないことを確認し、さらに念のため、おい茂った藪がまわりから自分の下半分を隠してくれる場所を見つけてそこに移動すると、デニムスカートのホックをはずし、ジッパーをおろして、スカートの中の自分の下着を確認した。
やはり、自分が身につけたときの位置からずれてはおらず、特に汚れてもいない。
美那子は少しだけほっとした。

「おい、まだあんなところにいるぜ」
数十メートル前方に藪の中から上半身だけをのぞかせている少女を見つけて、田中が興奮しつつも、小声で言った。
三人にとって幸運なことに少女はこちらに背中を向けて立っており、少女の方が三人に気づいている様子はまったくない。
三人の男は姿勢を低くした。
「さっさと行かずにこんなところでもたもたしてるなんて、信じられないな…」
田中が驚きの声を小声で発した。
すると長谷川も小声で言った。
「よし、街の中に逃げられる前に、絶対にここで捕まえるんだ。
 この幸運をのがしたら、あとはないぜ。
 みんな気づかれないように静かに近づけよ…」
三人の男は、ゆっくりと少女に向かって前進し始めた。
小島も低い姿勢のまま前進しながら、前方の少女を見つめて言った。
「茂みでミニスカートちゃんの足元が見えません…。
 しかしブーツを履いてても、履いてなくても、帽子をかぶせてしまえばこちらのものです」
野球帽を手に持った田中がまん中になり、その両側に長谷川と小島という並びで、男たちは慎重に進んで行った。

気を失っているあいだに脱がされたのはスカートだけであることをほぼ確信した美那子だったが、やはり上半身も気になってしまい、ブラウスの前のボタンを上からいくつかはずし、中のブラジャーの位置も確認してみた。
これもやはり特に乱れたところはなく、今朝自分で身につけたときとぴったり同じ位置のままであるとわかった。
少女の頭の中で考えがめまぐるしく回転した。
もしや、スカートを脱がされたというのも思いすごしなのかも…。
いや、しかし、ブラウスがスカートの下にはさまっていた状態は、明らかにスカートが一度おろされたことを物語っている。
だとすると…。

そのとき、突然美那子の背後で腕の太い男が立ち上がり、少女の頭に勢いよく野球帽をかぶせた。
ほぼ同時に、美那子の左右でふたりの男が立ち上がり、それぞれが美那子の左右の腕をつかんだ。
驚いた美那子はとっさに自分の両腕をつかんでいる男たちの顔を見て、状況を把握した。
先ほど自分を襲おうとした男たちが、自分を追ってここまでやって来ていたのだ。
《しまった》
腕を両側ともしっかりとつかまれ身動きがとれなくなった少女は、自分のうかつさを後悔した。
少女のブラウスは、下着の確認をしたときに上半分のボタンをはずしたままであり、さらに少女のミニスカートも同じく、ホックをはずし、ジッパーをおろした状態だった。
腕をふりきろうともがいたが、すでに遅かった。
普通の17歳の少女の力に戻っていた。

7. うつむいた反撃者

大声を上げようと美那子が口を開けた瞬間、背後からのびた田中の太い腕が美那子の首にまきつき、きつく締めあげ始めた。
強い力でのどを圧迫され、まともに声も出せなくなった少女は、しばらくうめいていたが、やがてその頭ががくりと前に倒れた。
全身の力が抜け、ひざをまげて地面にくずれおちそうになる少女を、横で腕をつかんでいた小島がすばやく前方にまわりこみ、抱きとめた。
少女はおおいかぶさるように小島にその体重をあずけ、手足をだらんとたらし、その顔を小島の肩の上にのせた状態となった。
「また気を失ったようですね…息はしてます」
小島は耳元に少女の息づかいを感じながらそう言うと、自分に密着した少女の身体を必要以上に抱きしめ、恍惚とした表情になって、少女の背中から腰にかけてのあたりをなで始めた。
一度手放したお宝がふたたび自分の手の中に戻ってきたことを喜んでいるかのようであった。
少女の髪からただようシャンプーの香りが、小島をいい気分にさせた。
だらしなくにやついている小島を見て、長谷川もいったん安心することにし、つかんでいた美那子の片手を放した。
《両手が自由になった!》
美那子は思った。
実は美那子は、両手をつかまれ首を絞められていたとき、とっさに、気絶したふりをすることを思いついたのだった。
男たちからこれ以上の暴力を受けることをふせぐための応急処置のようなつもりだったが、自分の手を動かして頭にかぶらされたものをはずすチャンスを、思いがけず与えられたかたちとなった。
そして少女がまさに自分の頭に手を持っていこうと思った瞬間、田中の放ったことばが、少女の行動を止めさせた。
「見てみろ、この女、やっぱりブーツを履いてるぜ。
 もうスーパーマンじゃなくなってたってことか。
 帽子をかぶせる必要もなかったな…」
気を失ったふりを続けながらそれを聞き、美那子は驚いていた。
今回男たちがまず少女の頭に帽子をかぶせてから襲ってきたのは、やはり彼らが少女の能力と、その能力の弱点に気づいていたからなのだ。
だが、今もまだブーツを履けば少女の能力が消失すると思っている様子からすると、森でのケレールやフォルティスとのやりとりを盗み聞きされたというわけではないらしい。
おそらく、今朝の道場でのケレールの言動と、少女がそのあと三人を瞬時に倒したことを結びつけて、推測したのだろう。
この男たちは思ったより強敵だと、美那子は感じた。
「ブーツを履けば自分が弱体化することに気づいてないとは、顔に似合わずまぬけな女だな」
長谷川はそう言うと、小島にかかえられてぐったりしている美那子に歩みより、美那子の頭にかぶせてあった野球帽を脱がせて、それを横にいた田中の頭の上にのせた。
美那子は、自分の体が急に軽くなり、力があふれてくるのを感じた。
《やった!帽子をとってくれた》
少女はふたたび自分が超人的な力を手にいれたことを確信した。
いつでも反撃できる状態になったことで心に余裕ができた美那子は、思った。
《この腰をなでてくる気持ち悪い男に抱きつかれている状態はいやだけど、しばらく話を聞いていれば、この男たちがさっき私のスカートを脱がせて何をしていたのか、わかるかもしれない…》
それがわかる可能性はかなり低そうだが、どうしても知りたいという気持ちが強く、美那子はこのまま気絶したふりを続けることにした。

長谷川が少女の野球帽を取ってしまったのを見て、小島は少しあせった様子で言った。
「あ、念のため帽子はまだかぶせておいた方がいいと思ったんですが…」
それを聞いた長谷川は、小島が用心深すぎるのをからかうかのように笑い、少女の足元を差ししめしながら言った。
「この女はさっき田中が殴って気絶させたときとまったく同じかっこうをしてるんだぜ?
 何も心配いらないだろ」
小島はそう言われて、しぶしぶ答えた。
「まあ、それはそうなんですが…」
長谷川はそこで、今まで小島がいくつも正しい推測をしたおかげで少女を捕らえられたことを思い出し、少し譲歩してやることにした。
「おまえがそんなに心配するんなら、念のためこの女のブーツ以外のものを何か脱がせておこう」
そう言いながら長谷川は少女を見た。
田中もすぐ横で少女を見ながら嬉しそうに言った。
「へっへ、ブーツ以外全部でもいいなあ」
田中のことばににやりとしたものの、小島が抱きついているのでブレザーは脱がしにくそうだと思った長谷川は、背後から両手で少女のスカートの腰の部分に手をかけた。
それを手伝おうとしたのか、田中も自分の顔の目の前に少女の短いスカートが見える位置にかがみこんだ。
その瞬間だった。
長谷川がはじかれたように背後に吹きとんだ。
残ったふたりの男は驚いた。
そこには、気絶していたはずの少女が、小島にのしかかった姿勢のまま、片脚を後方に突き出して、もう片方の脚で立っていた。
少女の真横でかがんでいた田中は思わずしりもちをついた。
小島は悲鳴のような声をあげて、とっさに少女から離れようとしたが、今度は少女の方が小島をがっちりとつかんでいた。
少女はつかんだ小島の体を片手で持ち上げると、すぐ隣りの地べたで腰をぬかしている田中の上にふりおろした。
ぶつかりあったふたりの男は、その衝撃のあまりの強さに気を失った。
先に少女に蹴りとばされた長谷川も、すでに意識はなかった。

三人の男たちをあっという間に倒した美那子は、まず、はずれていた自分のブラウスの上半分のボタンをはめなおし、さらに、下がっていたスカートのジッパーを上げ、ジッパーの上のホックをとめた。
続いて、自分のジャケットやスカートの乱れを直した。
そうしながら美那子は、野球帽をかぶせられる直前に自分の頭に浮かび上がっていたことを、思い出していた。
男たちが少女のスカートを脱がせてからまた履かせるまでの間にやったこと。
それはたぶん『撮影』だ。
倒れた男たちのポケットを順番にさぐり、美那子は四つの携帯電話を集めてきた。
そのうちのひとつは、間違いなく美那子のものだった。
美那子は思いがけず再会できた自分の携帯電話を、ジャケットの内ポケットにしまった。
《落としたんじゃなくて、盗まれていたなんて…》
三人の男の三つの携帯電話を重ねてひとつにすると、美那子は怒りをこめてにぎりつぶした。
そしてその残骸を男たちのそばに放り投げておこうとしたが、ふとあることを思い出した。
携帯電話自体を壊しただけではその中のデータを復元させられることがあると、誰かが言っていた。
この三つの携帯電話の中には、自分のあられもない姿の写真がおさめられているかもしれない。
美那子は、森の藪が深くなっているあたりに、ひびわれてつぶれた三つの携帯電話を投げ込んだ。
これで、三人の男が自分の携帯電話を見つけることはないだろう。

美那子は一度しまった自分の携帯電話をまた取りだした。
そして、警察への電話番号を押しながら、
《今日起こったことをありのまま説明して、警察の人はそれを信じてくれるだろうか…》
と心配するのであった。
つづく

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